2016年 4月16日〜30日
4月16日 フィル〔調教ゲーム〕

 エリックがぽかんとロビンを見る。

「何言ってんだおまえ?」

「エリック、すごいな。しょっぱなから工作か」

「いや何言ってんだおまえ? いやいや」

「人狼! みんな騙されるな。食べられちゃうぞ」

 ぼくは残りのメンバーに促した。

「じゃ、これを踏まえてみんな、今日、誰を縛り首にするか決めてくれ。人狼は吊るさないと殺せないんだ」

「えええ……」

 キースは気の毒なほど悩んでいた。ミハイルはかたまっている。
 アルは言った。

「わたしは村人なので、エリック破綻かな」

「……!」


4月17日 フィル〔調教ゲーム〕

 ぼくはほかの意見をたずねた。

「ミハイル、キースはどうする?」

 ミハイルもエリック処刑に同意した。

「深く考えない」

 キースも同意した。
 ロビンも、

「はい。狼一丁あがり」

 ぼくは宣した。

「エリックは村の広場で吊られてしまいました。そしてその夜」

 ぼくは神妙に言った。

「二匹の人狼は、ミハイルとキースを襲い、タカトウ村は滅んでしまいましたとさ」

 キースがあっと口をあけた。

「エリック、本物だったんだ」

「愚か者どもめ」

 エリックが渋い顔をした。ぼくは笑った。

「だから説明をきけと」


4月18日 フィル〔調教ゲーム〕

「狼ってのは、役職を騙ることができるんだ。今のロビンみたいにニセ占い師になったりね。みんなは真偽を読み取らなきゃならない。それには大声でおれがーとわめくより、説得力のある説明をしないと。村人が死ねば村の損になるからな」

「……」

「基本の基本はこんな感じだ。村人は話し合いから、狼を推理して吊る。狼はニセ占い師になったり、村人のふりをして、やっかいなやつを吊るよう仕向ける。夜には食べる」

 エリックが鼻息荒く言った。

「嘘つきゲームか! もうわかった。もう一回やろう」


4月19日 フィル〔調教ゲーム〕

 ロビンが言った。

「ここまではわかるんだよ。でも、『狂人』とかさ」

「じゃあ、次は役職を増やす」

 ぼくは言った。

「人狼をひとり減らして『狂人』というカードを入れる。こいつは裏切り者だ。人狼に心酔していて、彼らのために働く。具体的には、ニセ占い師になったり、人狼を吊らせないようウソをつく。ただし、占い師が彼を見ると、『人間』と出てしまう」

 キースの目がにぶくなった。

「……じゃ、わからないじゃないか」

「だから、もうひとつ『霊媒』を入れる。これは処刑された人が本当に人狼だったかわかる。つまり、ニセ占い師を暴くヒントになる」


4月20日 フィル〔調教ゲーム〕

 二回目のゲームがはじまった。

「夜です。全員寝て。――狼は目をあけて」

 キースが目を開けた。ぼくを見て、泣くように顔をしかめた。

「了解。目を閉じて。次、占い師は目を開けて」

 アルが目を開け、ウインクした。

「誰を占うか指す」

 アルはミハイルを指さした。
 ぼくは『人間』のカードを見せた。

「じゃ、目を閉じて。霊媒は目をあけて」

 エリックが目を開けた。

「よろしい。初日の刑死者はない。目を閉じて」

 狼はキース。
 占い師はアル。
 霊媒はエリックだ。


4月21日  フィル〔調教ゲーム〕

「朝が来た。おはよう。全員目を開けて。広場には、ぼくの惨殺死体が朝日にさらされている。人狼は誰か、推理して吊るしてくれ」

 エリックがまた開口一番言った。

「おれ、霊媒」

 あのさ、とロビンが言った。

「それすぐ言わなくてもいいみたいだよ」

「?」

「人狼は、占い師や霊媒が苦手だから、真っ先に狙われるだろ」

「……」

「夜、すぐ噛まれるだろ」

「おう……」

 ミハイルも言った。

「じゃ、占い師も黙ってたほうがいいのか」

「決まりはないけど、命の捨て時を考えて言ったほうがいいよ」


4月22日 フィル〔調教ゲーム〕

 ぼくは仮面が欲しくなった。

 狼キースの顔がコチコチでおかしい。目も伏せがちだ。
 ミハイルが言った。

「じゃ、今回はエリック以外を吊ったほうがよさそうだな。キースは――村人か?」

「――」

 キースはあいまいにうなずき、黙りこんでしまった。
 ロビンが、

「キースさあ。様子が変だよな……狼なんじゃないの?」

「いや。おれは……」

 待て、とエリックが入った。

「おれの霊感だが、アルが怪しい」

「なんで」

「こいつが無駄口叩かない!」

「おお」

 ミハイルも言った。

「たしかにおとなしい」


4月23日  フィル〔調教ゲーム〕

 ロビンが言う。

「――キース、きみはどう思う?」

 キースは首をひねってみせた。

「……」

「さっきから返事しないね。だれが狼と思う?」

 キースの目がふわふわただよい、アルをチラと見た。アルは言った。

「ロビンはあやしい。理由は、キースにばかりからむ」

「え、おれ?」

「さっさとひとり処刑したい感じだ」

 アルは軽く鼻息をついた。

「実は占い師はわたしだ」

「!」

 キースのからだが固まる。ロビンがいぶかった。

「なんで、今カミングアウトした?」

「情報を出す前に、吊られちゃ困るからだ」


4月24日 フィル〔調教ゲーム〕

 アルは言った。

「ミハイルは白だった」

「……」

 エリックが眉をしかめる。

「どうせなら、黒が誰か聞きたかった」

「人数が五人だと最大二回しか処刑回数がないのに無駄はできない。ミハイルはシロ。エリックはほぼ霊媒。残りはロビンとキースだ。どっちか吊れば狼だ」

「……」

 ミハイルも言った。

「たしかにおれは村人だ。当たってる。――じゃあ、ロビンだ」

「なんで!」

「なんとなく。キースにからみすぎる」

「そりゃそうさ。こいつ、万引きした小学生にそっくりだもん」

 タイマーが鳴った。


4月25日  フィル〔調教ゲーム〕

 ぼくは彼らに決断を促した。

「今夜、処刑されるのは誰だ?」

 投票の結果、ロビンの処刑が決まった。

「はい。また夜が来ました。全員寝て。――占い師は目をあけて、誰を占う?」

 アルがキースを指す。
 『人狼』のカードを見せ、

「これです。――寝て。次、霊媒」

 エリックが目覚める。

「処刑されたロビンは」

 『人間』のカードを見せた。エリックは憮然となった。

「寝て。次、狼起きてくれ」

 キースが情けない顔をあげる。泣きそうだ。

「処刑するのは誰か示す」

 キースはアルを指した。


4月26日 フィル〔調教ゲーム〕

「はい。朝です。起きましょう。すがすがしい朝の広場に、アルの惨殺死体。さあ、残り三人で推理してくれ」

 エリックがどんより言った。

「ロビンは村人だった。以上」

「エリック」

 ミハイルが聞いた。

「ホントに人狼じゃないんだな」

「霊媒だって言ってんだろ」

「じゃ、キースが人狼じゃないか」

「……おまえが人狼じゃないならな」

「ぼくはちがう」

 キース、とミハイルが言った。

「きみが人狼だな」


4月27日 フィル〔調教ゲーム〕

 狼キースはほとんどふるえそうになっていた。

「え、おれは――」

「正直に言え。ぼくは狂人だ」

「え」

 エリックもハッと目を剥いた。

「なに?」

 狂人は人狼の味方だ。

「ちょっと待て」

「そう。だから、今日の処刑はエリックにしよう」

「ちょっと待て。ええ?!」

 キースは腰がぬけたように大息吐いてテーブルに伏せた。指だけあげ、

「エリックに1票」

「ぼくも」

二票入り、エリックは処刑された。

「人狼チームの勝利。村はキースに食いつくされてしまいました」

 エリックとロビンが無念の泣き声をあげた。


4月28日 フィル〔調教ゲーム〕

「し、死ぬかとおもった……!」

 キースがテーブルにぐったり潰れた。

「ロビンこわい。ジャベール警部よりこわい」

 アルも笑う。

「でもロビンてあやしいんだよね。根がギャンブラーだから勘ぐっちゃうよね」

 あのさ、とロビン。

「今の戦犯はアルだよな?おれがキース吊ろうとしたのに言いがかりつけて。狂人ミハイルのシロだけ証明して」

「えへ」

 まだ皆やりたそうだったが、ぼくはおひらきにした。もっと人数多いほうが面白い。

「明日、CFで人を集めてやろう」


4月29日 フィル〔調教ゲーム〕

 新メンバーを募り、ぼくたちはCFの一室に集った。
 新しいメンバーは、アンディ、ジル、ヒロ、コスタ。そして、人魚屋敷でかかわったリアンだ。

「リアンは元FBIだったな。お手柔らかに」

 ぼくが言うと、リアンは、

「ハードルあげないでくれ。犯罪者に騙されたから、ここにいるんだ。それにジルも本職だろ」

 ジルは無愛想に足を投げ出している。

「おれは単なる頭数だ。ここは砂が吹いてこないからな」

 うちからはアルをのぞく五人。アルはランダムのために家に残った。


4月30日 フィル〔調教ゲーム〕

 今日は新たな役職として『狩人』が加わる。

「この『狩人』は、夜の間、メンバーをひとり守ることができる。例えば、人狼が占い師を噛もうとしても、守られていると一回無駄になるわけだ」

「じゃ、はじめようか!」

 コスタはカードを見たくてしかたがないようだ。ぼくは言った。

「ここにいるのはぼくを含め全員初心者だ。みんな手探りで戦っている。ケンカはするな。大らかに楽しんでくれ」

「わかった。やろう!」

 コスタはテーブルを叩いている。エリックはやるせない顔をしてそれを見ていた。


←2016年4月前半          目次          2016年5月前半⇒



Copyright(C) FUMI SUZUKA All Rights Reserved